この記事を書いた人

のぼじん|腎臓内科専門医 | CKDガイドラインシステマティックレビュー委員
医学論文や診療ガイドラインに基づいた情報発信を大切にしています。CKDと向き合うには、検査値を知ることに加えて、食事・運動・服薬・通院などを生活の中で続ける工夫も大切です。このブログでは、CKDの検査値の見方や生活習慣の考え方、努力だけに頼らず行動を続けるための仕組みを、専門医の立場から一緒に考えていきます。

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のぼじん|腎臓内科専門医 | CKDガイドラインシステマティックレビュー委員
医学論文や診療ガイドラインに基づいた情報発信を大切にしています。CKDと向き合うには、検査値を知ることに加えて、食事・運動・服薬・通院などを生活の中で続ける工夫も大切です。このブログでは、CKDの検査値の見方や生活習慣の考え方、努力だけに頼らず行動を続けるための仕組みを、専門医の立場から一緒に考えていきます。
減塩は、食事全体を一度に変えなくても始められます。この記事では、なぜ「一品」なら動きやすいのか、その選び方を説明します。
相談者さん減塩しないといけないのはわかります。でも、具体的にどうしたらいいでしょうか。続けられる気がしません。



そうですよね。では、どうしたら減塩が出来るのか一緒に考えてみましょう。
こんな経験はありませんか?
この記事では、そんな悩みを解決します
腎臓内科専門医として、減塩を実行できる形にする方法をまとめました。


医師やコメディカルの皆様に質問です。よく腎臓病患者さんに「塩分を控えましょう」とお伝えすることはないでしょうか。
確かにそれが大事なのですが、「塩分を控えましょう」という言葉は抽象的で、具体的に次に何をすればいいかがわかりません。
抽象的な言葉は患者さんにはなかなか届きません。
なぜなら、その言葉を解釈して、それを行動に移すためには、どうすればいいか…?など考えていると複数のステップが必要になり、行動のハードルが上がるためです。
また、腎臓内科医になりたての頃の私は、減塩を説明するときに、注意する物をどんどん並べていました。
味噌汁は控えめにしましょう。漬物も少なくしましょう。麺類の汁は残しましょう。醤油のかけすぎにも気をつけましょう。
具体的な食事指導のようにも見えますが、これも実際に実行するためにはハードルが高いです。
控えるってどれくらい?少なくってどれくらい?
もう少し具体的にできそうです。
また、いきなりいくつもやらなければならないと思うとハードルは上がります。
説明する項目が増えるほど、患者さんには「結局、全部変えないといけないのか」という負担感が残ります。
そこで、減塩をするという目標とは別に最初の行動を決めましょう。
何から変えるかわからないときは、「減塩」という広い目標を、次の食事で実行できる一つの行動まで小さくします。
日本の『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』は、血圧と尿蛋白を抑えるため、CKDのある方に食塩6 g/日未満を推奨しています。推奨の強さは「1」、エビデンスの確実性は「C」です(エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023)。
CKD患者さん1,197人、21試験の統合では、食塩摂取量に平均約4.2 g/日の差があると、少ない条件で収縮期血圧は約7 mmHg、拡張期血圧は約4 mmHg低く、アルブミン尿も平均約36%少なくなりました(Altered dietary salt intake for people with chronic kidney disease)。
尿蛋白・アルブミン尿が減るとなぜ嬉しいかというと、透析が必要となるリスクが減らせるのではないかと考えられるからです。
100万人を超える一般・高リスク集団のコホート研究を統合した解析では、アルブミン尿が多いほど末期腎不全のリスクが高いことが示されています。尿蛋白・アルブミン尿は、将来の腎リスクをみる重要な指標です(Lower estimated GFR and higher albuminuria are associated with adverse kidney outcomes. A collaborative meta-analysis of general and high-risk population cohorts)。
ただし、これは観察研究でみられた関連で、「尿蛋白を下げれば透析が減る」という因果を証明したものではありません。
また、先程の減塩について評価した臨床試験期間の中央値は7週間、最長36週間でした(Altered dietary salt intake for people with chronic kidney disease)。
血圧や尿蛋白を短期的に改善することは示されていますが、透析や死亡を減らす直接的な根拠はまだ確立していません。
つまり、現在わかっていることは次のように分かれます。
このように臨床試験でわかることの限界はあるものの、総合的に判断して減塩のメリットは強いと考えられます。
だから、私も含めた多くの腎臓内科医は減塩を勧めるのです。
そしてガイドラインでも減塩が推奨されているのです。
では、どこから手をつければよいのでしょうか。
2007~2019年の国民健康・栄養調査を使った研究では、20歳以上の95,581人が分析されました。日本人がとる食塩の約70%は、調味料由来でした(Trends in dietary salt sources in Japanese adults – data from the 2007–2019 National Health and Nutrition Survey)。
日本人の場合、減塩するためには調味料に目をつけるのが良さそうです。
ちなみに欧米ではパンや加工食品が主要な塩分の原因だそうです。
地域によって食文化もかわるんですね。
尚、調味料には、醤油や味噌のほか、食塩、だし、ドレッシング、ルウなども含まれます。


ここからは、行動の始めやすさについて考えてみましょう。
組織心理学者のカール・ワイクは、大きな問題に圧倒されると、考えたり行動することが難しくなると論じました。
問題が大きく、複雑に見えるほど、何に注意を向け、何から始めるかを決断しにくくなります。
「食事を全部、減塩食に変えなければ」と考えたときも同じです。
必要なことが、自分にできることを上回っているように感じます。
その結果、始める前から減塩という大きな問題に圧倒され、「やっぱりやめた」となってしまいやすいのです。
そこでワイクが示したのが、「スモール・ウィン」 という考え方です。スモール・ウィンとは、具体的で、実行に移され、完了した、小さいけれど意味のある成果のことです(Small-Wins_Redefining-the-Scale-of-Social-Problems)。
論文で紹介されているわかりやすい例が、飲酒問題からの回復を支える自助グループ、アルコホーリクス・アノニマスの取り組みです。
最終的な目標は、お酒を飲まない生活を続けることです。しかし、最初から「一生飲まない」と考えると、あまりにも大きな課題になります。
そこで、「まず次の24時間は飲まない」と考えます。誘惑が強いときには、「次の1時間は飲まない」まで小さくします。
24時間お酒を飲まなくても、一生飲まないという目標の中ではまだ途中です。
それでも、「次の24時間」という限られた範囲では、実際に行動し、完了した成果になります。
できたかどうかも、自分で確認できます。
他にも1000枚の紙を数える話も紹介されています。
1000枚を一度に数えている途中で中断されると、最初から数え直さなければなりません。
しかし、先に10枚ずつの束を作り、それを100枚の束にまとめておけば、完成した束はそのまま残ります。
中断されても、数え直すのは作業中だった小さな部分だけです。
ワイクは、スモール・ウィンを、このような「短い紙の束」にたとえています。
つまり、スモール・ウィンは、目標を小さく言い換えるだけではありません。
大きな課題から、実際に終えられる範囲を切り出します。
そして、その範囲では行動を完了し、確認できる結果を残すのです。
課題の範囲を小さくすると、求められる行動が減り、「これなら今の自分にもできる」と感じやすくなるのです。


具体的なメッセージの有用性についての実例として、米国で行われた「1% or Less」キャンペーンがあります。
このキャンペーンが目指したのは、食事からとる飽和脂肪を減らすことでした。
しかし、住民へ「健康的な食生活を送りましょう」とは伝えませんでした。
伝えたのは、スーパーで牛乳を買うとき、全乳や2%乳から、脂肪分1%以下の牛乳へ替えるという一つの行動です。
最初の研究は、West Virginia州の約2万5千人が暮らす地域で行われました。期間は7週間です。
テレビやラジオ、新聞だけでなく、スーパーの売り場、学校、職場、教会でも同じメッセージを伝えました。
「次に買う牛乳を1%以下へ替える」
地域の8つのスーパーすべてが参加し、1,910人への試飲も行われました。
介入地域では、低脂肪乳の販売シェアが18%から41%へ増えました。6か月後も35%で、開始前より高い状態でした。
電話調査でも、もともと全乳や2%乳を飲んでいた人のうち、低脂肪乳へ替えた割合は介入地域38.2%、比較地域10.2%でした(1% Or Less A Community-Based Nutrition Campaign)。
ただし、一つの介入地域と一つの比較地域を比べた非無作為化研究です。価格、季節、もともとの地域差などの影響を除き切れていません。
ただし、具体的なメッセージの有用性について教えてくれるのではないかと思っています。


日本人17人を対象にした短期試験があります。通常の醤油と味噌を使った期間に比べ、低ナトリウム製品へ替えた期間では、24時間尿からみた食塩排泄量が低下しました。
毎日繰り返し使う調味料を変えることで、実際に体へ入る塩分も変わり得ることを示す結果です。
対象者は17人、期間は各1週間であり、対象もCKD患者さんではない点には注意です(日本食における低ナトリウム醤油・味噌による減塩 – 二重盲検無作為化比較クロスオーバー研究)。
また、この結果は、すべてのCKD患者さんに減塩醤油や減塩味噌を勧める根拠ではありません。
減塩の塩や減塩醤油、減塩味噌といった調味料には原材料にカリウムが含まれていることが多いからです。
国際的な腎臓病機構であるKDIGOの2024ガイドラインでは、加工食品中のカリウム塩や塩化カリウム入りの代替塩は、吸収されやすいカリウム源として挙げられています(KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease)。
そのため、CKD患者さんがこうした調味料を使いたい場合は、主治医と相談いただくことをおすすめします。
そのため、今回は実践例として毎朝の味噌汁を取り上げます。
まず、普段の朝食を思い出してください。
そこに味噌汁はありませんか?
毎朝のように味噌汁を飲んでいる方なら、同じ一杯を繰り返しています。
そのため、最初に減らす一品として適切です。
毎朝味噌汁を飲まない人は、毎日の食事を思い浮かべて、毎日または週に何度も繰り返している塩分を多く含む食事がないか考えてみてください。
変えるのは、朝の一杯だけです。
そして、翌朝に実行できれば、その一食については実行完了です。
「減塩を頑張ろう」と漠然とした目標を立てただけの状態とは違い、目標を達成できたかどうかを自分で確かめられます。
これがスモール・ウィンです。
さらにスモール・ウィンは、次の行動を決めるための小さな実験にもなります(Small-Wins_Redefining-the-Scale-of-Social-Problems)。
小さく試すと、行動と結果の距離が近くなります。そのため、得られた反応をすぐに次の工夫へ生かせます。元論文では、このフィードバックが学習と適応を助け、次に解ける問題を見えやすくすると説明されています(Small-Wins_Redefining-the-Scale-of-Social-Problems)。



朝の味噌汁だけでいいのですね。



はい。まずは朝だけで大丈夫です。試してみて、物足りなさや続けやすさを確かめてみましょう。
CKDの減塩では、血圧と尿蛋白を抑えるために、食塩6 g/日未満が推奨されています。
しかし、6 g/日未満は最終的な目標です。「食事を全部薄味にする」では、明日の食事で何をすればよいかがわかりません。
減塩を始めるときは、最終目標とは別に、次の食事で完了できる一つの行動を決めましょう。
毎朝味噌汁を飲んでいる方なら、明日の朝、その一杯をつけないことから始められます。味噌汁を飲む習慣がない方は、普段繰り返している別の一品を選んでください。
一品を一度変えただけでは、食塩6 g/日未満は達成できません。それでも、「何をすればよいかわからない」状態から、「一つ試し、その結果から次を選べる」状態へ進めます。
うまくできなかったときも、「自分には減塩ができない」と決める必要はありません。その方法が今の生活に合わなかっただけと考え、別の一品や場面で小さく試し直せばよいのです。
あと大切な注意点として、減塩をする際に、減塩の塩や減塩醤油、減塩味噌といった調味料を使う場合は主治医に確認しましょう。なぜなら、原材料にカリウムが含まれていることが多いから。また、別記事で解説出来ればと思っています。



