この記事を書いた人

のぼじん|腎臓内科専門医 | CKDガイドラインシステマティックレビュー委員
医学論文や診療ガイドラインに基づいた情報発信を大切にしています。CKDと向き合うには、検査値を知ることに加えて、食事・運動・服薬・通院などを生活の中で続ける工夫も大切です。このブログでは、CKDの検査値の見方や生活習慣の考え方、努力だけに頼らず行動を続けるための仕組みを、専門医の立場から一緒に考えていきます。

この記事を書いた人

のぼじん|腎臓内科専門医 | CKDガイドラインシステマティックレビュー委員
医学論文や診療ガイドラインに基づいた情報発信を大切にしています。CKDと向き合うには、検査値を知ることに加えて、食事・運動・服薬・通院などを生活の中で続ける工夫も大切です。このブログでは、CKDの検査値の見方や生活習慣の考え方、努力だけに頼らず行動を続けるための仕組みを、専門医の立場から一緒に考えていきます。
慢性腎臓病(CKD)があり、便秘も気になっている方へ。この記事を読めば、便秘と高カリウム血症の意外な関係がわかります。
相談者さん便秘はつらいですが、腎臓とは別の話ですよね?



実は、完全に別の話ではありません。CKDでは便秘が増える傾向があり、便秘は高カリウム血症のリスク因子にも挙げられています。
こんな経験はありませんか?
この記事では、そんなあなたの疑問を解決します。
腎臓内科専門医として、外来では見落とされやすい「便秘とカリウムの関係」をまとめました。


腎臓病の専門外来では、便通について私たちから積極的に聞かないと、話題に上がらないことがよくあります。



最近、便はどれくらいの間隔で出ていますか?



3日に1回くらいです。でも、腎臓と何か関係あるのですか?
これは、外来でよくある風景です。
便秘はおなかの症状です。
そのため、「腎臓病外来で伝えるべき情報」とは思いにくいのでしょう。
そう考えるのは自然なことです。
ただ、医療者側から積極的に聞かないと、便通の変化が診察で共有されないままになることがあります。
しかし、便秘はCKDと無関係な症状ではありません。
韓国の医療保険データを使った研究では、CKDのある方が便秘と診断された割合は次の通りでした。
透析を受けている患者さん全体では44.5%でした。血液透析では45.0%、腹膜透析では40.5%でした。
また、CKDのある方は、年齢と性別をそろえて比較したCKDのない方より、便秘と診断されやすいという結果でした(Real-world evidence of constipation and laxative use in the Korean population with chronic kidney disease from a common data model)。


上の図で注目してほしいのは、ステージ4以降で便秘の診断割合が大きく増えている点です。
この研究は診療報酬データを使った観察研究です。
CKDも便秘も診断コードから判定されているデータベースを用いた研究なので、症状を一人ずつ調べた研究ではありません。
また、観察研究なので、CKDが直接便秘の原因であることを示した研究でもありません(因果関係は言えません)。
それでも、進行したCKDでは便秘が珍しくないことを示すデータです。
上の研究では、CKDのある方に便秘が多い理由までは直接調べていません。臨床では、次のような複数の要因が重なる可能性が考えられます。
CKDでは病気そのものだけでなく、生活や治療に伴う変化も重なります。その結果として、便通が悪くなる方が増える可能性があります。
便秘は、腎臓病外来で自然に話題に出るとは限りません。
高カリウム血症があるときなどは、腎臓病外来でも便通を積極的に確認しています。
ここまで、CKDが進行するほど、便秘の診断割合が高くなる傾向を見てきました。
では、なぜ腎臓内科で便通を確認するのでしょうか。
理由の一つは、便秘が血液中のカリウム値に関わる可能性があるからです。
国際的なCKD診療指針であるKDIGO 2024では、便秘が高カリウム血症のリスク因子に挙げられています。
カリウム排泄を減らす要因の一つとしても提示されています(KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease)。



便秘があると、必ずカリウムが高くなるのですか?



必ずではありません。
カリウム値には、腎機能、薬、血糖、血液の酸性・アルカリ性のバランスなども関わります。
便秘は、その中の一つです。
「リスク因子」とは、便秘があれば必ず高カリウム血症になる、という意味ではありません。
ただ、便秘を腎臓とは無関係な症状として切り離さないことが大切です。
では、なぜ便通がカリウム値に関わるのでしょうか。
その理由を理解するために、次はカリウムの体の出入りを見ていきましょう。
便秘は高カリウム血症のリスク因子です。
ただし、便秘があれば必ず高カリウム血症になる、という意味ではありません。
カリウムは、筋肉や神経が働くために必要なミネラルです。一方で、体内にたまりすぎないよう、入ってきた量と出ていく量のバランスをとる必要があります。
食事に含まれるカリウムの多くは、小腸から血液中に吸収されます。
1994年の総説では、食事中のカリウムの約90%が、体内に取り込まれるとされています。
その後、体の外へ出すときの主な出口が、腎臓から作られる尿です。
腎臓は、体の状態に合わせて、尿の中へ出すカリウム量を調節しています。
1994年の総説で紹介された腎機能が保たれた成人4人の代謝平衡研究では、1日の平均は次の通りでした。
「mEq」は、カリウムなどの電解質の量を表す単位です。ここでは数字そのものより、尿と便の割合に注目してください。
この研究で、尿と便に出た量を合わせて100とみると、約89%が尿、約11%が便です。
おおまかに 「尿が9割、便が1割」 とイメージするとわかりやすいでしょう(Pathophysiology of Potassium Absorption and Secretion by the Human Intestine)。


この研究の限界としては、少人数の古い研究の平均値を用いたものだということです。
食事量、腎機能、薬、便の量などによって個人差があります。
カリウム排泄の主役は腎臓ですが、上でお示ししたように大腸にもカリウムを体外へ排泄する仕組みがあります。
深く踏み込む内容になりますので、この部分は飛ばしてもらっても大丈夫です。


大腸は、便が通る一本の管です。管の壁の最も内側には、大腸上皮細胞が一層に並んでいます。
上皮細胞の外側には、粘膜の毛細血管と組織液があります。内側には、便が通る空間である「大腸管腔」があります。
カリウムが移動する経路を、医学的な位置関係に沿って並べると、次のようになります。
大腸粘膜の毛細血管側 → 組織液 → 基底側膜の取り込み口 → 大腸上皮細胞内 → 管腔側膜のBKチャネル → 大腸管腔の便水 → 便として体外
この流れには、エネルギーを使うポンプと、カリウムが通る出口があります。
血液・組織液側の膜を「基底側膜」と呼びます。
ここにあるNa⁺/K⁺-ATPaseは、ATPという細胞のエネルギーを使うポンプです。
ナトリウムを細胞外へ出す一方で、カリウムを細胞内へ取り込みます。
この働きによって、細胞内にはカリウムが多い状態が作られます。
水をポンプでタンクにためるように、まずカリウムを細胞内に蓄えるイメージです。
反対側の便に面した膜は「管腔側膜」です。ここには、カリウムの出口となるBKチャネルがあります。
BKチャネルは、ATPでカリウムを押し出すポンプではありません。
チャネルが開くと、カリウムは濃度差と電気的な力に従って、大腸管腔へ移動します。
この二つを合わせた流れやすさを「電気化学的勾配」と呼びます。
つまり、ポンプがATPを使って流れやすい状態を作り、BKチャネルが出口になるのです。
BKチャネルを形作る主要なαサブユニットは、KCNMA1遺伝子によって作られます(Physiology and Pathophysiology of Potassium Channels in Gastrointestinal Epithelia)。
上の図は、左から「体内側」「大腸上皮細胞」「便がある大腸管腔」を並べています。
血液から便へ直接移るのではなく、上皮細胞の2つの膜を順番に越えていく点がポイントです。
左側のポンプはATPを使ってカリウムを細胞内へ取り込みます。
右側のBKチャネルはATPを直接使わず、ポンプが作った差を利用してカリウムを便側へ通します。
腎機能が大きく低下すると、腎臓から尿へ排泄できるカリウム量が減ります。
そのため、元々は小さかった大腸の経路が、相対的に重要になります。
ヒトの小規模研究でその変化を示唆する結果があります。
1986年の研究では、慢性腎不全の7人は、対照7人より直腸からのカリウム分泌が多いという結果でした(Increased Secretion of Potassium in the Rectum of Humans With Chronic Renal Failure)。
2005年の研究でも、末期腎不全の8人は、対照10人より直腸のカリウム分泌が約2.5倍多くなっていました(Enhanced large intestinal potassium permeability in end-stage renal disease)。
どちらも小規模な研究ですが、なかなかこういった研究で大人数を行うのは現実的に難しいのではないかと感じています。
そういった意味で貴重な研究だなと感じています(私見です)。
大腸から排出されたカリウムは、便と一緒に体外へ出て、はじめて排泄が完了します。
便秘で腸の動きが遅くなると、この経路が十分に働きにくくなる可能性があります。
これは、便秘と高カリウム血症の関連を説明する仕組みの一つです。
ただし、便秘がこの経路にどの程度影響するかは、ヒトで直接数値化されていません。
大腸からの排泄が、腎臓からの排泄を十分に補えるとまではいえないのです。
腎機能が保たれているときのカリウム排泄は、腎臓から尿へ出る経路が主役です。
一方、進行したCKDでは大腸からのカリウム排泄が相対的に重要になります。
2003年に、血液透析を受けている患者さんを対象とした研究が報告されています。
この研究では、血液透析を受けている患者さん13人が、ビサコジル(大腸を刺激するタイプの便秘薬)を2週間使用しました。
すると、血液中のカリウム値は平均5.9から5.5 mmol/Lへ低下しました。
同じ研究では、別の血液透析を受けている患者さん5人が、ラクツロース(便を軟らかくするタイプの便秘薬)を使用しました。
こちらでは、カリウム値に明らかな変化がありませんでした(Dietary potassium and laxatives as regulators of colonic potassium secretion in end-stage renal disease)。
興味深い結果ですが、注意点があります。
したがって、この研究から刺激性下剤のほうがカリウムを減少させるというのは言い過ぎのように思います。
しかし、透析を受けている患者さんで、腸の働きと血液中のカリウム値が連動する可能性を提示した研究だと思います。
その後、進行したCKDの患者さん36,116人について、透析を始める前の1年間を調べた観察研究が報告されました。
この研究では、下剤(便秘薬)を使用していた時期は、使用していない時期より高カリウム血症が少ないことと関連していました。
年齢や病状などのさまざまな背景を調整した後も、この関連は残りました(オッズ比0.79)。(Laxative Use and Risk of Dyskalemia in Patients with Advanced CKD Transitioning to Dialysis)。
ただし、これは米国退役軍人を中心とした観察研究で、97.9%は男性と対象の偏りがあります。
また、未測定の因子については調整できていません。
例えば、下剤を使う方と使わない方では、便秘の程度、食事、栄養状態などが異なる可能性があります。
また、下剤の使用は便通の状況そのものが正確に表現出来る指標でもありません。
そのため、この限界には注意が必要です。


私が考える研究からわかっていることは以下の2つに分けられます。
一方で、まだ確定していないこともあります。
「関連がある」ことと「便秘が高カリウム血症を起こすと証明された」ことは同じではありません。
CKDが進行すると、便秘の診断割合は高くなる傾向があります。
一方、カリウムの主な排泄経路は腎臓ですが、腎機能が低下すると大腸からの排泄が相対的に重要になります。
大腸から分泌されたカリウムは、便と一緒に体外へ出ます。
こうした経路も一つの背景として、便秘は高カリウム血症のリスク因子に挙げられています。
ただし、便秘があれば必ずカリウムが高くなるわけではありません。
また、便秘を治せば高カリウム血症を予防できるとまでは証明されていません。
ここで大切なのは、特定の便秘薬を選ぶことではありません。
便秘を腎臓とは無関係な症状として切り離さないことです。
普段のCKD外来でも、便通の回数や最近の変化は、腎臓診療に関係する情報として伝えてよいのです。
次の定期外来では、普段どのくらいの間隔で便が出ているか、最近変化があったかを伝えてみてください。
仕組みを知っていると、「便秘の話までしてよいのかな」という迷いは少し減ります。
知ることは、漠然とした不安を整理し、自分の状態を伝えやすくする助けになるはずです。



